この記事では、ヨガの経典『ヨーガ・スートラ』とはどのような書物なのか解説しています。
ヨガはポーズと瞑想を使った心身の健康法であるとされています。しかし、ヨガのおおもとであるこの経典では、ヨガの目的は「心の動きの停止」とされていました。
ヨガの根本経典である、この『ヨーガ・スートラ』を読み解くことで、自分自身が行っているヨガという行為の本質の一片を見出すことができるのではないでしょうか。
「ヨガ哲学について学びたい」「さらにヨガの深部を覗いてみたい」という人は、ぜひご一読ください。
『ヨーガ・スートラ』とは?
ヨガのおおもと、根本教典として知られるのが、今回取り上げる『ヨーガスートラ』。この本は、ヨガの古典文献のなかでも最古とされています。
また、『ヨーガスートラ』は、インド哲学の一つである「サーンキヤ哲学」をベースにして書かれています。サーンキヤ哲学は「魂と身体は別もので、双方が分かれた状態でなければ悟りは開けない」といった教えです。
この哲学をもとに『ヨーガスートラ』では、瞑想に没頭し、本来の自分や生き方を、外的要因ではなく、あくまで心の内側から見つけ出す方法を説いています。
書かれているのは「心」をコントールする方法
ヨガの教典ではあるものの、ヨガのポーズ(アーサナ)については具体的に書かれておりません。ヨーガスートラでは主に、自分の内なる「心」コントロールし、最終的には一切の心の動きを静止するための心えや方法が書かれています。
つまりヨガは本来、瞑想を主とした心のコントロール方法であったといえるでしょう。
「ラージャ・ヨーガ」の経典といわれる
『ヨーガスートラ』は、主に心を扱うヨガである「ラージャ・ヨーガ」の教典とされています。ラージャ・ヨーガは、「心をコントロールするために、心・身体・感覚を鍛えること」。ラージャ・ヨーガの道には。下記の8つの方法(八支)があります。
- ヤーマ(禁戒)
- ニヤーマ(勧戒)
- アーサナ(坐法)
- プラーナーヤーマ(呼吸法)
- プラティアハーラ(制感、感覚の制御)
- ダーラナ(疑念、精神集中)
- ディヤーナ(静虜、瞑想)
- サマーディ(三昧、超意識)
「ヤーマ」と「ニヤーマ」は、心の浄化と向上。「アーサナ」と「プラーナーヤーマ」は身体を鍛え心を制御する。「プラティアハーラ」は心の流出を抑制しエネルギーを保存。「ダーラナ」は心を静め、「ディヤーナ」は精神世界へ導く。そして「サマーディ」は超意識の世界へ導きます。
「ヨガ」はすなわち「道」である
「ヨーガ(ヨガ)」の意味について、解釈はさまざまあります。この場合のヨーガは、「道」「行法」といった意味があります。
自分の心の内側に生き甲斐や楽しさを見つけることで、外部の物事にとらわれず平穏に生きるための「道」が浮かび上がってくる、といったところでしょう。
著者パタンジャリの謎
『ヨーガ・スートラ』編纂された年は紀元後4〜5世紀、編纂者はパタンジャリ氏といわれています。パタンジャリがこの経典を著して以来、彼はヨガの尊敬される権威者となりました。
しかし、パタンジャリの生きた時代は明らかになっておらず、そもそも一人の人間であったのか、複数の人間なのかも定かにはなっておりません。
半分神様のように描かれることもあり、パタンジャリは謎の多い存在ともいえるでしょう。
4章・3部に分かれた本著
パタンジャリ氏は、『ヨーガ・スートラ』の目的について、冒頭で「一切の心の動きを静止させること」と述べています。その目的に基づき、この経典は4章・3部から成っています。
- 第一章・・・サマーディ(三昧)ヨガの究極目標
- 第二章・・・サーダナ(実践)目標到達のための方策
- 第三章・・・ビブーティ(自在力)ヨガの道を巡るうちにヨガ実習者が開発する心霊的能力
- 第四章・・・カイヴァルヤ(純粋絶対)ヨガ成就者が到達する絶対的自由の状態
- 第一部・・・心の働き方と知ることに重点を置く
- 第二部・・・一切の心の動きの静止に役立つヨガの実践方法の研究
- 第三部・・・ヨガ実践の結果を検討
『ヨーガ・スートラ』の基本「サーンキヤ哲学」
『ヨーガ・スートラ』は、お伝えしたように「サーンキヤ哲学」に基づいた、心を落ち着けるプロセスを述べている経典ともいえます。
サーンキヤ哲学は、「二元論的多元論」などといわれることもあります。これは、本来の自分「真我(プルシャ)」と、それ以外の世界や物事を「自性(プラクリティ)」として分ける考え方です。
この哲学では、「心」も「身体」も「私」ではないと説いています。ヨーガ・スートラを読み進めていくと、自分自身は、「心」を介してしかこの世界を見ることができないということが分かります。
本来の自分を知るためには、この「心」の動きを静止しする必要があります。
ヨーガ・スートラの教え「心の静止」
前述のとおり、『ヨーガ・スートラ』では一貫して「心の働きの停止」を目指します。しかし、心の停止とはどのようなことなのでしょうか。
人間の生活は、心、すなわち個人意識で覆われています。人は「自分が何者なのか」知りません。本当の自分を知らないのは、自己意識を自分でコントロールすることができないからです。
この経典では、ヨガが「心の動きの停止」という試みを助けてくれると説いています。自らの心を、これまでの経験により蓄積された過去の言葉や記憶、印象から浄化させてあげる。これにより、新鮮に世界を見ることができ、自分の人生を捉え直すことができるとパタンジャリはいいます。
まとめ
以上、『ヨーガ・スートラ』の大まかな概要をご紹介しました。ここまで読んで、「心の動くの停止」とはどのような状態なのか。そうなったとき、自分にはどんな人生が待っているのか。
心を惹かれた方は、ぜひ『ヨーガ・スートラ』を手に取ってみてはいかがでしょうか!
参考:『ヨーガスートラ パタンジャリ哲学の精髄』(2014 )東方出版 著ヴィディヤーランカール 編訳中島 巖