眠れない夜をお過ごしの皆様、朗報です。
メッセージを送り合う友人もいない。読書も飽きた。夜食を食べ過ぎて自己嫌悪。
…そんな「最低な夜」を「最高の夜」に変えてくれる映画があります。
本記事では映画好き筆者が、ぜひ眠れない夜に観てほしいおすすめの映画を9本厳選して紹介します。ぜひ寝る前のお供にしていただけたらと思います!
目次
1.ナイトオンザプラネット
ロサンゼルス・ニューヨーク・パリ・ローマ・ヘルシンキの5都市で同時刻に走るタクシー内で起きる物語を、オムニバスで描くジム・ジャームッシュ監督作品。
大物エージェントを乗せた若い運転手、英語が通じない運転手、盲目の女性客を乗せ口論する運転手、神父相手におしゃべりする運転手、酔っ払いの客に翻弄される運転手…。
地球という同じ「星」の、同じ夜空の下で繰り広げられる異なるストーリー。ウィノナ・ライダー、ジーナ・ローランズ、ロベルト・ベニーニなど豪華キャストが揃います。
眠れない夜にだらだらと観たいオムニバス映画
この作品は、夜のタクシーで同時刻に起こることを描いたオムニバス映画です。
眠れない夜に観る映画として、真っ先に思い浮かんだのもこの映画です。
特に起承転結のあるストーリーというわけではなく、タクシーの乗客と運転手のなんてことのない会話劇がメイン。
だからこそ、共に夜を明かすお供として最適なんですよね。
2.ちょっと思い出しただけ
ナイトオンザプラネットを見終わってもまだ眠れないという方は、ぜひ続けてこちらの作品を観て欲しいです。
『バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画をつくったら』『くれなずめ』などの意欲的な作品を手がける松居大悟監督のオリジナル脚本を映画化。主演は池松壮亮さん、伊藤沙莉さん。
ロックバンド「クリープハイプ」のボーカル尾崎世界観が自身のオールタイムベストに掲げる『ナイト・オン・ザ・プラネット』に着想を得て書き上げた新曲「ナイトオンザプラネット」。この曲にインスピレーションを受けた松居監督が執筆した、初のオリジナルのラブストーリーが、本作『ちょっと思い出しただけ』なんですね。
ナイトオンザプラネットに非常にゆかりのある作品で、同じように怠惰でかけがえのない夜を過ごせるでしょう。
主題歌「ナイトオンザプラネット」
この作品での見どころならぬ「聴きどころ」は、クリープハイプの主題歌「ナイトオンザプラネット」。
もともとこの曲を聴いた松井監督がインスピレーションを受け、作られたのが本作。劇中の随所に、「ナイトオンザプラネット」の要素が散りばめられています。
この曲は、ジム・ジャームッシュ監督作品『ナイトオンザプラネット』を観た男女の思い出がエモーショナルな歌詞で紡がれています。劇中でも、何度も『ナイトオンザプラネット』が登場します。
ナイトオンザプラネットに出てくるウィノナライダーは、葉と同じタクシードライバー。葉がウィノナライダーの真似をして照生が喜ぶシーンは、二人だけの究極の内輪ノリとして楽しめます。
3.天使の涙
殺し屋は顔も知らないエージェントとビジネスのパートナーを組み、順調に仕事をこなしていた。自分たちは良きパートナーだと思ってすらいた。しかしエージェントに惚れられてしまった殺し屋は、2人の関係に終わりが近づいていることを知る。さらに、殺し屋に恋したもう一人の女が現れる。一方、手痛い失恋をした女は、傷が癒えるまでの期限付きで、口がきけない男と付き合うこととなるが…。
妖しくきらめく香港の街を舞台に、5人の男女の物語が交錯していく。
全編にわたる極端なワイドレンズ、トレードマークのコマ落とし・コマ伸ばしの連続。アクション場面の躍動感、光と音の斬新でスタイリッシュな使い方など、ビジュアルセンスにさらに磨きのかかった一遍です。
製作は『黒薔薇VS黒薔薇』、『チャイニーズ・オデッセイ』など娯楽作品の監督を務めるジェフ・ラウ。撮影は『欲望の翼』以来コンビを組むクリストファー・ドイル。美術は『いますぐ抱きしめたい』以降のカーウァイと組むウィリアム・チョンなど、ウォン・カーウァイ作品の常連スタッフが集結しました。
出演は『妖獣都市・香港魔界篇』『シティー・ハンター』のレオン・ライ、『スウォーズマン/女神伝説の章』のミシェル・リー、『恋する惑星』『初恋』の金城武、『バタフライ・ラヴァーズ』『トワイライト・ランデブー』のチャーリー・ヤン、『チャイニーズ・オデッセイ』のカレン・モクいつも通りの豪華メンバー。
妖しく美しい香港の夜に酔いながら
本作の舞台は香港の夜。
殺し屋とエージェント、殺し屋に恋した破天荒な女、失恋女と口の聞けない男、と個性的なキャラクターが達が、ネオンきらめく香港の夜で織りなす青春群像劇。
嘘偽りなく、これを観ればあなたの夜は「最高の夜」に早変わりします。
とにかく劇中の雰囲気が最高。
ざらついた質感で描かれる90年代香港の、もわっと香り立つ芳醇な夜。アルコールを飲んでいなくても、気持ち良く酔ってしまいそうです。
ディスコミニュケーションの若者達が織りなす切ない恋愛模様
そんなわけでビジュアルイメージからすると色っぽい大人の男女の恋愛ストーリーなのかと思ってしまいますが、登場人物の若者達はどこか子供っぽくて思春期じみている。
作品のテーマに、「ディスコミニュケーション」があるのではないかと。
ディスコミニュケーションの意味には、「相互不理解」「対人コミニュケーション不全」「意思伝達ができない」などといったようなものがあります。
本作は、主に「ほとんど顔を合わせない殺し屋とエージェント」と「口の聞けない男と期間限定で付き合う女」の二軸でストーリーが展開されます。つまりどちらも、相手とのコミュニケーションが不足した状態で関係を続けているということです。
登場人物たちはモノローグにより自分の気持ちを吐露しますが、相手に直接気持ちを伝えることはありません。特に金城武演じる「口の聞けない男」は、 物理的に気持ちを伝えることができず、心情世界のようなモノローグでのみ、非常に饒舌になります。
この演出からも、人が饒舌になるのは心中のみで、それがいざ対人になると、どう伝えて良いかが分からず口籠ってしまう(ディスコミニュケーション)という普遍的な問題が浮かび上がってくるように思います。
本作は、こういった人間のディスコミニュケーションから来る人間関係の飢え、欲求不満のようなものがよく表されているように感じます。
4.マイブルーベリーナイツ
『2046』『恋する惑星』のウォン・カーウァイ監督初となる英語劇のラブストーリー長編作品。失恋したエリザベスは、カフェのオーナー・ジェレミーが焼くブルーベリーパイにより少しずつ傷が癒されていく。それでも元恋人への気持ちを捨てきれない彼女は、ひとり旅に出ることを決意する。エリザベスは行く先々でさまざまな問題を抱えた人びとに出会い、自分の中にもある心境の変化がもたらされる。
グラミー賞受賞歌手のノラ・ジョーンズが主演デビューを飾る。ジュード・ロウ、レイチェル・ワイズ、ナタリー・ポートマンら豪華映画スターが勢ぞろい。
ニューヨーク。主人公は失恋したばかりの女性、エリザベス。彼女は彼への未練が拭いきれず、彼の家の向かいにあるカフェへ出入りするようになる。毎晩エリザベスのためにブルーベリー・パイを取っておいてくれるカフェのオーナー、ジェレミー。彼と交わす他愛ない会話に心が慰められるエリザベス。しかし二人の距離が縮まったかにみえたある日、エリザベスは失恋相手が新しい恋人といるところを見てしまう。そして彼女は突然、ニューヨークから遠い旅へ出る…。
失恋から57日、1,120マイル、メンフィス。別れた美しい妻への愛を断ち切れず、アルコール中毒になった男と、その元妻に出会うエリザベス。失恋から251日、5,603マイル、ラスベガス。人を信じないことを信念とするギャンブラーに出会い、旅をともにするエリザベス。
出会った人々の人生、そして自分の人生を照らし合わせ、エリザベスは思う。「人を愛し、信じることっていったい何なんだろう…」
それを真っ先に伝えたい相手が、ジェレミーだった。
失恋した主人公の自分探しの夜
この記事では眠れない夜におすすめの映画を紹介していますが、『マイブルーベリーナイツ』は、特に恋に敗れて落ち込んでいる人びとに観てほしいです。
失恋後は喪失感に苛まれ、もう会えない想い人のことを考え枕を濡らしたりしてしまうことでしょう。
「恋愛物なんてとてもじゃないけど見れない!」
そんなあなた、安心してください。
この作品は、失恋した主人公のエリザベスが自分探しの旅に出て、人を愛し、信じることの意味に気が付くストーリー。
観賞後は、間違いなく少しだけ明日を生きる希望、もう一度誰かを好きになる勇気をもらえることでしょう。
愛ってなに?
この作品では、「愛とは何か」というテーマが提示されています。
主人公のエリザベスは恋人に裏切られ、愛を信じられなくなり旅へ出ます。そして旅の道中で出会った人物たちも、皆それぞれ「愛」についての問題や苦しみを抱えています。
エリザベスがメンフィスで働いていたバーには、妻への愛を断ち切れずにいる男がいます。彼と妻はもう長い間まともな会話すらしていないようで、妻にはほかに男がいました。しかし彼はまだ妻を愛していました。不毛に見えた関係性ですが、男が死に、そこでようやく妻は夫への気持ちを吐露します。妻の夫への愛は完全に消えてわけではなかったのです。ただ夫の気持ちの重さに耐えられなかっただけで。
ラスベガスで出会ったギャンブラーの女は、父の愛を信じきれずにいました。「人を信じるな」それが父の教えでした。誰も信じることができなくなった女は、父の死に目に会うことも叶いませんでした。
そんな人物達の人間模様を傍観していたエリザベスは、ニューヨークに戻り、ジェレミーに再会することを決意します。
生きていれば愛を信じられなくなる瞬間もあるでしょう。それでも人は一人では生きていけず、誰かを信じたいたいと願うその心は否定すべきものではなく、いつだってそんな自分の心を大切にしなければならない。そんな学びを得られる作品だと思いました。
自分探しの旅のお手本
この映画は、失恋し失意のどん底にいる主人公が自分探しの旅に出るというストーリー展開です。
この作品の素晴らしい点は、道中、そこまで劇的でドラマチックなことが起きないというところ。エリザベスが新天地で失恋相手以上に魅力的な男性と出会ったり、自分の人生を変えてしまうようなハプニングが起きたりすることはありません。むしろエリザベスは常に傍観者であり、出会った人物たちに起こる出来事も必ずしも幸せなものではない。もちろん殺人事件やギャンブラーとの火遊びは普通の出来事ではないのですが、それでもエリザベスはそこに主役として君臨しません。
そういった展開から見えてくるものは、自分探しの極意とは、出会う人間の中にある自分を見つめること。
この旅では、愛についての問題を抱えた人物たちに出会います。エリザベスは出会った人間の中に自分を見つけ、これからの生き方や自分に取って本当に大切なものを考えるきっかけにしていくのです。
自分を見失ったとき、ここではないどこかへ旅立つことにより自分を俯瞰することができるという、自分探しのお手本ともいうべき作品でしょう。
5.クーリンチェ少年殺人事件
『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』は、エドワード・ヤンが手がけた台湾の若者たちの青春群像劇。1991年第4回東京国際映画祭で審査員特別賞受賞、ヤン監督の初の日本公開作品として92年に劇場公開されました。
1961年夏、少年がガールフレンドを殺害するという、台湾初の未成年殺人事件が起きました。その実話をもとに作られたのが本作です。
主人公を演じたのは、当時素人だったチャン・チェン。この映画には、上映時間が「188分」のものと「236分」の2バージョンが存在します。2016年第29回東京国際映画祭ワールドフォーカス部門では、デジタルリマスター版の236分バージョンがプレミア上映され、2017年には同バージョンが劇場公開となりました。
1960年代の台湾、台北。夜間中学校に通うスーは。不良グループ「小公園」に属するモーやズルたちとつるんでいた。スーはある日、ミンという少女に出会い恋をする。彼女は小公園のボス、ハニーのガールフレンドで、ハニーは対立するグループ「軍人村」のボスとミンを奪い合い、相手を殺して姿を消していた。ミンへ恋心を抱くスーだったが、ハニーが突然戻ってきたことからグループ同士の対立は激しさを増し、スーを巻き込んでいく…。
淡々と見ていられる静謐で美しい映像
この作品の大きな魅力は、静謐で美しい映像表現。
236分という長尺で、静かに淡々と進むストーリーはまさに眠れない夜にぴったり。
主人公スーが通う夜間学校の静謐で閉鎖的な描写、野原で出会うスーとミン、スーの家のモダンな家具や間取りなど、美しい映像表現が詰まっています。
登場人物が多く見分けがつきづらかったり、つかみどころのないストーリーだったりと、長尺映画として初見から受け入れやすい映画とはいえないかもしれません。しかし、このひっそりと美しい映像描写を写真集のように眺めているだけでも観る価値があると思います。特にアジア映画が好きな人や、当時の台湾の雰囲気に興味がある方には刺さるのではないでしょうか。
夜間中学ならではの薄暗く閉鎖的な世界観
主人公スーが夜間中学に通っており、夜の描写が非常に多いのもおすすめしたいポイントです。
彼らの青春は夜に集約されており、その独特な閉鎖的な雰囲気はそのまま作品の魅力にも直結しているように思います。
特にスーとミンが学校終わりに一緒に帰るシーンは必見です。
この長尺な作品の中で、観賞後も特に頭から離れないのが、この夜間学校の描写です。「あれは夢だったのではないか」と思わせるような、薄暗く幻想的な非日常が味わえること間違いなしでしょう。
1960年代台湾、若者たちの鬱屈とした日常
この作品では、1960年代台湾の鬱屈とした若者達の日常が鮮明に描かれています。土台は不良グループ「小公園」と「軍人村」の抗争で、その火種となったミンと、ミンに恋したスーを中心に群像劇として展開していきます。
劇中ではスーを取り巻く多くの台湾の若者たちが登場し、当時の時代背景と相まり、鬱屈とした雰囲気が常に流れています。夜間学校が舞台となっていることもあり、作品全体の色は薄暗く、若者たちの目にも独特の翳りがみえます。
そのため、ただ単に若者達の青春群像劇というよりは、常に「死」の香りが漂う不穏な雰囲気が流れており、それが作品の尖った魅力となっているように感じます。
この良い意味の「不穏」さが、大長編のこの作品を飽きずに見続けることができる理由の一つといえるでしょう。
6.きみに読む物語
『メッセージ・イン・ア・ボトル』など数々の著作で知られるニコラス・スパークスのベストセラーを『シーズ・ソー・ラヴリー』のニック・カサベテス監督が実母であるジーナ・ローランズ出演で映画化。全米でロングラン・ヒットを記録する。療養施設で暮らす、記憶を失った初老の女性の前に、ひとりの男性が訪れる。男は、ある物語を読んで聞かせる。それは1940年代アメリカ南部の町で、良家の子女と貧しい青年の間に生まれたある純愛の物語だった。
第9回ゴールデン・サテライト賞助演女優賞(ジーナ・ローランズ)。全米週末興行成績初登場第4位(2004年6月25日〜27日)。
療養生活を送る、記憶を失った老婦人(ジーナ・ローランズ)のもとに、ひとりの老人(ジェームズ・ガーナー)が現れる。彼は老婦人のもとに足繁く通い、ある物語を読み聞かせる。 それは、1940年アメリカの夏、南部の小さな町で始まる純愛の物語である。休暇を過ごすため都会からやって来た17歳の良家の子女・アリー(レイチェル・マクアダムス)。彼女は、地元の製材所で働く貧しい青年ノア(ライアン・ゴズリング)と出会い、やがて恋に落ちる。 しかし、娘の将来を案じる両親に交際を阻まれ、アリーは都会へ引き連れ戻されてしまう。 ノアは365日毎日アリーへ手紙を書くが、一通の返信もないまま、やがて第2次世界大戦が始まる…。
人を愛することの意味を知る夜
本作は、運命的に出会った二人の男女の、奇跡のような一生を描いたラブストーリーです。
人を愛する喜びを知ることができる本作は、ぜひ現在愛する人がいる人や、恋愛真っ只中の方に観ていただきたいですね。
本作でのノアとアリーの関係を通して浮かび上がってくるのは、「愛」とは何かということ。
田舎の製材所で働く貧しい青年ノアと、都会育ちの裕福な子女のアリー。はじめはノアの猛アタックから始まりましたが、次第に二人は愛し合うようになります。正反対の性格の二人は、常にストレートに気持ちを伝え合い、時にはぶつかることも。アリーの両親に交際を反対され別れた後も、人生の節目節目で二人は出会うことになります。
2度目の再会ではアリーに婚約者がいました。常に二人の間には、一筋縄では結ばれない壁が立ちはだかります。それでもノアはアリーのことを諦めませんでした。
ノアは「関係を維持するには努力が必要だ。だけど母ったは努力したい。君といたいから」と言います。
このようなノアの言葉から、本当に人を愛するとはどういうことか、考えさせられます。恋人同士の関係というのは、いくら愛し合っていても決してうまくいくことばかりではなく、むしろ衝突することの方が多いもの。そういうった問題が起きたとしても、関係を持続するために努力できるか。そしてどれだけ見返りを求めず相手のために行動できるか。
ノアのアリーへの行動を見ていると、本当に人を愛するとはこういうことなのかもしれないと思わされます。そして多くの人は、こんなに好きになれる人の出会いたいと、もしくは現在愛している人をこんな風に大切にしたいと思うのかもしれません。
7.マイ・プライベート・アイダホ
スター俳優、リバー・フェニックスとキアヌ・リーブスが共演し話題を呼んだ青春ロードムービー。
ポートランドの路上に立ち男性に体を売って暮らす、男娼の青年マイク。ナルコレプシーという緊張すると意識を失ってしまう奇病に悩まされるマイクは、自分を捨て姿を消した母親を捜すため、市長の息子で男娼のスコットとともに、故郷アイダホへと向かうことに…。
同性愛やドラッグなどの内容を、詩的な映像を通して独自の観点から描いたガス・バン・サント監督の傑作。リバーフェニックスの遺作『ダーク・ブラッド』(20121年公開)の公開にあわせ、2014年にリバーフェニックス特集上映でデジタル上映されました。
緊張すると突然眠り込んでしまう、ナルコレプシーという病気を抱えながらポートランドの路上で体を売るストリートキッズのマイク。マイクの親友スコットは市長の息子で、家を飛び出して男娼をしてお金を稼いでいた。
そんなある日、突如失踪した母親を探すことを決意したマイク。マイクは親友のスコットを誘い、兄の暮らす故郷、アイダホに向けてバイクで旅立つ…。
身分の違う二人が出会い絆を深めるロードムービー
ロードムービーが観たいという方はぜひ本作!
この作品の主人公マイクと親友のスコットは、ともに男娼という同じ境遇にいながら、まったく違う身分にあります。両親がおらず、突然眠り込んでしまう病気に悩まされるマイク。市長の息子として将来を約束された立場にあるスコット。
そんな二人はポートランドの路上で出会い、友情関係を育んでいきます。そしてマイクの母親を探すため、アイダホに旅立ちます。
ともに旅をしていく中で、さらに二人の絆は深まっていきます。
その後の驚愕の展開はぜひ、映画をご覧ください。
ナルコレプシーに悩むマイクの苦難の日々
主人公のマイクには発作的に突然深い眠りに襲われる「ナルコレプシー」の持病があり、ストレスを感じたり、緊張したりすると所構わず眠り込んでしまいます。
この持病のせいで、マイクは日常生活を平穏に送ることすら困難です。
このマイクの持病が、作品のなかではキーとなって働き、しばし場面転換にも使用されます。マイクが眠りにつき、再び起きたときには作品世界が進んでいる…。その繰り返しで物語が進行していくので、観ている側も、夢か現かといった混沌とした状況を余儀なくなれます。
深い夜に見ればなおさらカオスな気分になり、その感覚が心地良く感じられるでしょう。
23歳で亡くなったリバーフェニックスの刹那的な眩しさ
この映画の主人公、マイクを演じるのは23歳で亡くなったリバーフェニックス。作品の魅力を高めているのは、このリバーフェニックスの刹那的な眩しさです。
彼が若くして亡くなっていることで、現在映画を観ている人間が若き彼の姿を「刹那的」だと感じるのは否めませんが、それでも彼の繊細な演技はつい見入ってしまうほど。
ストレスを感じると突然眠ってしまう、複雑な生い立ち、路上で体を売る男娼という難しい役所を見事演じきったリバーフェニックス。常に孤独を抱えた警戒心の強い瞳や、神経質そうな所作、どこか心ここに在らずのポーカーフェイス。すべてがどこか痛々しく儚げで、人の心を魅了します。
8.天使のたまご
『天使のたまご』は、1985年に制作されOVA作品です。原案・監督・脚本は押井守。発売元は徳間書店、DVD版は2001年にパイオニアLDCから販売。2007年1月、徳間書店よりDVD版再発しています。
ノアの方舟が陸地を見つけられなかったもう1つの世界を描く。巨大な眼球を持ち、なかに複数の人型の彫像が鎮座する機械仕掛けの奇妙な太陽が海に沈むと、世界は夜を迎える。舞台は方舟のなかの動物がすべて化石になったころの忘れ去られた街。
一人の少年と、一人の孤独な少女が出会う…。
眠れない夜の映画「大本命」!
実は、この作品が今回大本命。
眠れない夜にぜひとも観てほしいアニメ映画です。
あまりの孤独感に、ぞわっとするほど心地よくなる本作。
大洪水後、人類が滅亡したあとの廃墟の街が舞台ということもあり、作品全体の雰囲気は非常に淋しい。生きた人間や動物はほとんど出て来ず、精神世界のようなおぼつかない街の風景。
作品自体、「生まれる前の雛が見る夢」という設定があるように、夢の中のような心許なさが常にあります。
あまりにも喪失感の伴う世界観に、鳥肌が立つような孤独感を味わうことができます。この孤独感は嫌なものではなく、むしろ心地良く感じるほど。
こんな経験をしたことはないでしょうか。たまたま深夜に目が覚めてしまい、窓の外はしんと静まっている。あまりにも静かなので、この世界で起きているのは自分だけなのではないかと錯覚してしまうような夜。淋しさもありながら、その孤独感が妙に心地良く胸を躍らせる。…そんな類のぞわぞわと鳥肌が立つ孤独感が非常にクセになる作品です。
一人になりたい夜こそ、じっくり観てほしい作品です。
旧約聖書「ノアの方舟」を独自に解釈した物語
この作品は、旧約聖書創世記に登場する「ノアの方舟」のエピソードを独自解釈した物語をベースにしています。
<ノアの方舟 あらすじ>
地上で繰り返される多くの争いごとに嫌気がさした神様は、あるとき地上を一掃するため大洪水を起こす。
ただ神様は、たったひとりだけ正しい心をもつノアを救うために「方舟をつくり、家族と動物たちを載せるように」と伝える。
神様の言葉を信じたノアは、巨大な舟を作り始める。しかし人びとは、素っ頓狂なことを言うノアを馬鹿にし「大洪水がくる」ことをてんで信じようとしない。
実際、何十日もの間続いた雨で陸地は沈み、人間も動物も地上から姿を消してしまう。
方舟に乗ったノアと家族と、動物たちを除いて…。
『天使のたまご』は、この旧約聖書「ノアの方舟」の、方舟が陸地を見つけられなかったもう一つの世界という設定です。
舞台は方舟のなかの動物がすべて化石になったころの忘れ去られた街。廃墟となった町には、孤独な少女が一人で暮らしています。大洪水の余韻の残るその街は、物悲しく淋しい。
この独特の世紀末じみた作品の雰囲気は、視聴者に独特な没入感を与えます。まるで世界に自分以外誰もいないような感覚、ぜひ楽しんでいただきたいです。
9.Love Letter
風邪をひいた夜に
この作品は、風邪をひいた時特有の、絶妙な気だるさを感じられるのが魅力。
風邪を引いてなんとなくだるく眠れない夜は、ぜひ本作をお供にしてほしいです。
主人公藤原樹が劇中で風邪をこじらせており、常に夢と現実をふらふらと行き来しています。
映像的な表現にしても、幻想的な光の当て方や、ぼんやりと柔らかな質感が、なんとも気だるさを誘います。風邪をひいた静かな夜に、ぼうっと一人で観ると心地よい気分で眠りにつけそうです。
面白いのが、物語のピークの場面で樹の風邪の具合も悪化していくということ。面白い映画では、シーンを重ねるごとに視聴者の「熱」も帯びていくと思うんです。作品にのめり込めばのめり込むほど樹の熱が上がっていく様が、視聴者の映画を観る「熱」と連動していているのが魅力の一つだと感じます。
「手紙」について考える
SNSがメッセージ交換ツールの主流になっている昨今。「手紙」を書くという行為について深く考えさせてくれるのが本作です。
手紙の良い所は、自分の素直な気持ちを伝えられる点。
SNSはやり取りのスパンが短かったり、すぐに既読がついてしまったりして、落ち着いて自分の気持ちを整理してから伝えることが難しいのではないでしょうか。
「手紙」であれば、まっさらな紙に、自分の気持ちをゆっくり乗せることができます。どれだけ悩んでも推敲しても良い。長文でも重たくならない。それが「手紙」です。
この映画が公開された頃にSNSはありませんが、時代を超えて「手紙」の良さを再確認できる作品であることは間違いないです。
観賞後は誰か大切な人に思わず手紙を書きたくなってしまうかもしれません。
浮遊感のある映像美
この作品の大きな魅力は、ずばり映像美でしょう。陽だまりの中にいるような柔らかな光の質感、美しい登場人物たち、雪景色……。作品の世界観にぴったりと溶け込むシーンばかりで、観ているだけで目が潤います。
登場人物達も派手な服を着ているだけではないのに、絶妙に様になっています。
樹が風邪を引いているということもあり、夢か現実か分からないような演出も浮遊感に拍車をかけています。
ミステリーなど難しい映画が観たくない、頭を使いたくないという方でも、ただただ流れている美しい映像をぼうっと観ているだけでも楽しい本作。
風邪の日の夜にぴったりです。
まとめ
以上、眠れない夜の最強映画をご紹介させていただきました。
いやあ、達成感がすごいです。
なぜかって、間違いなく紹介した9本は、眠れない夜に観る映画として最強ラインナップと言えるからです。
どの作品も、夜の美しさや心地よい混沌を感じることができ、観賞後「なんか良い夜だったな」と思えるものばかり。
それでは、良い夜を!